約1年半前、MAP Uを創業するちょっと前にひょんなことから落語を始めるようになって、最初に覚えた根多が『時うどん』、参考にした噺家が桂枝雀さんで、それから『初天神』『紙入れ』『ん廻し』と根多を覚えていった。
どれも好きな根多だが、『時うどん』以外は枝雀さんが十八番としていたものでなく、従って別の噺家を参考に演ってきたのだが、先日『代書』を根多おろしするにあたって、久々に枝雀さんの落語を集中的に観ることになった。
ぼくが一番好きな噺家は、最初に参考にしたこともあって、やはり断然、枝雀さんである。
『代書』にしたって当然DVDで持っているのだが、それだけでは飽き足らず、夜な夜な動画サイトで検索しては、様々なマクラやサゲの『代書』を観てきた。
(マクラは漫才でいうところのつかみ、サゲはいわばオチだが、演者によって違うことも多く、同じ演者であっても時期によって変わることがある)
とりわけ、陰陽論と「緊張の緩和」理論(枝雀さんが提唱した有名な笑いの理論)を結びつけて語っているマクラが素晴らしい。
「昭和の爆笑王」と呼ばれた枝雀さんの力ずくで笑わせるアクション落語、「とにかく笑わせたらええんや!」の芸が、実に考え抜かれた理論の上に成り立っていることをまざまざと思い知らされる。
上岡龍太郎さんは枝雀さんのことを評して、「知というか理が勝っている人」と言っている。
それを「大阪人はインテリジェンスをひけらかすのをよしとしない。それは野暮ったいというか、とにかく笑いの方が優先」なので、真打昇進をきっかけに下品でナンセンスな笑いに変えたのだという。
ぼくは枝雀さんが枝雀さんになる前、まだ小米さんという高座名だった頃の落語を知らない。
品があって正統派のインテリジェンス溢れる落語をしていたらしい。
その上で、その正統派の落語を自ら破壊して、枝雀さんオリジナルの「邪道」の落語を作り上げたらしい。
ぼくは大阪人ではなく神戸の育ちだが、インテリジェンスをひけらかすことの野暮ったさは分かる気がする。
理論は全て抑えた上で、それを崩してあえてアホなことをやるのが格好いいのだとすら思う。
知や理に優れながら、あえて肌感覚に身を任せることで、インスピレーションに富んだアウトプットをしていきたい。
昨日浅草の「文七」で『代書』を演って、もちろん枝雀さんの名前を出すのも恥ずかしいほどの腕前しかないのだが、これからしばらく枝雀さんの十八番を追っていこうと思った。
(代表 杉本)